メッセージ | ||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||
MUSICIANS 三浦 久 / ボーカル、 ギター、 ハープ クニ河内 / キーボード、 シンセサイザー、コーラス 野間義男 / ギター、コーラス 中井一郎 / バイオリン、コーラス 下畑 薫 / ベース、ギター 野田美佳 / マリンバ、 パーカッション、コーラス 阿知波一道 / コーラス 山北紀彦 / パーカッション、コーラス PRODUCER 三浦 久 DIRECTOR クニ河内 |
||||||||||||||||||||||
●CDのお問合せ & 購入方法 | ||||||||||||||||||||||
「メッセージ」 ライナーノーツ 三浦久―生きるための歌 浜野サトル |
||||||||||||||||||||||
宮沢賢治描くゴーシュは、オーケストラの楽長に叱責され、連夜、家に帰っては練習に励む。夜を徹してセロを弾く彼のもとには、毎晩、不意の客が訪れるのだが、ご存じのとおり、彼らは猫、カッコー、タヌキ、野ネズミといった動物たちである。 ゴーシュは邪魔だてする彼らに腹を立て、ときには相手を傷つけながら必死で練習を続ける。物語の大半はそうした場面の連続であり、そうしてみると、この物語の本質は、よく言われるように、「不退転の決意が万難を排して突き進む」ところにあるのだろうか。いやいや、そうではあるまい。 細部に注意しながら読むと、一見粗野な動物たちはゴーシュよりもむしろ繊細で、怜悧で、そのためにときに辛辣な口調になるのがわかる。練習を中断したゴーシュを、「ぼくらならどんな意気地がないやつでものどから血が出るまではさけぶ」と、カッコーはなじる。ゴーシュが繰り出す音を聴きながら、「ゴーシュさんはこの二番目の糸をひくときはきたいに遅れるねえ」と、タヌキの子はつぶやく。そう、ゴーシュの目から見れば愚かな聴き手にすぎない彼らは実はたぐい稀な批評精神を宿していて、その一言一言が知らぬ間にゴーシュの「精進」を後押しするのだ。 それにひきかえ、1990年代も残り少なくなったいま、この国の音楽とそれをとりまく状況はどうだろう。毎月いや毎日、新しいCDがこれでもかこれでもかと工場の生産ラインから吐き出されてくるのはこれまたご存じのとおりだが、その量が増えれば増えるほど、入手が手軽になればなるほど、歌や音楽は単なる断片化した情報となり、情報慣れした聴き手によって巧みに処理されていく。一方、聴き手にどれほど批評精神が欠けているかは、彼らに支持される音楽が顔や姿こそ変わってもほとんど同じテーマ、同じリズム、同じメロディーを繰り返す、ひどく均質化した世界であることがもののみごとに証明している。 こういうこの国の音楽状況に三浦久の歌をぽんと投げ込むと、彼がどれほど独自のスタンスに立っているかがはっきりする。彼がやっていることと時代の流行との間にはおそろしいほどの断絶がある。どう見ても、彼は少数派だ。少数派どころか、孤立していると言っていいかもしれない。 しかし、本当の意味で時代そのものに深くかかわっているのは、はたして彼のような歌い手と流れに乗り続ける連中のどちらだろうか。その答えははっきりしている。それは、例えば、このアルバムにおさめられた歌の、次のようなフレーズ1つ見ただけであきらかだ。 与えられることに慣れ 彼の歌は、「だれかに向かって語りかける」ことを基本的なスタイルとしている。歌であり作品である以上、それ自体は常に不特定多数に向かって開かれてはいるのだが、彼が歌を発信する相手は抽象化されたマッスとなった薄気味の悪い社会ではなく、いつも具体的なだれか――彼の家族であり、友人であり、あなたであり、僕であるようなだれか――なのだ。 父は独立戦線の闘士だった しかし、歌がしばしばこの世界の現実をリアルにすくい上げてくるからといって、三浦久を60年代に活躍した歌い手の何人かがそうであったように、「時代に抗して生きる歌の闘士」などと評してしまうのは早計である。まず第一に、彼の歌は声高なアジテーションになることはほとんどない。何かを批判し断罪するよりも、彼は疑問を投げかけることを選ぶ。いま引用した「アニー・イナシオのバラード」にしてもそうである。 ■ ■ ■ 失われたおまえの人生、誰が償ってくれる 歌であれ、詩であれ、音楽であれ、人が表現に向かうのは、何ごとかやむにやまれぬものを内側に抱えているからである。彼はそれを形にすることで、受け手との間に対話の糸を結ぶ。それは彼自身がよりよく生きるためであると同時に、受け手にもよりよく生きてほしいと願っているからだ。 |
||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||
Discography index |